解体工事開始まであと1ヶ月ほどの頃、私たちが住んでいたマンションの上の階にに空きが出て、母と妹はとりあえずそこを仮住まいにすることになりました。
仮住まいへの引越作業。
水害で水につかった家の中を片付けるときに、随分と捨てるものとそうじゃないものを仕分けしたのですが、30年近く暮らしてきた家。
引越となると、今まで仕舞いこんだまま何年も出していなかったような荷物まで出てきました。
それを、とっておくもの、リサイクルショップに持っていく物、捨てるものと仕分けする作業。
とりあえず大きなものだけは引越し屋さんにお願いするとして、小さなものは少しずつ自分たちで仮住まいに運ぶ毎日。
こんな作業を進めていることを知ったI建築さんが、こんなことを申し出てくださいました。
「どうせ解体したら全部廃棄物になるんだから、いらないものは全部、残しておいてもらってかまわんよ」
この申し出に、母はとても喜びました。
何を捨てるのにもお金がかかる時代ですから。
母にとっては、嬉しい気遣い、サービスだと感じたのでしょう。
ただ・・・
それから一週間ほどで異変に気づきました。
もって行こうか迷っていたものや、すぐに使わないので後から運ぼうと思っていたものがいくつかなくなっていたのです。
父の形見でもある、囲碁や将棋
掛け軸
壷
花瓶
大理石のようなものでできた置物・・・
例え迷っていたようなものでも、なくなってしまうと悔しく思うもの。
「Iさんが持っていかれたのかしら。もう処分されちゃったのかしら。」
母の中で、このときはじめて、本当にI建築さんに対する疑いの気持ちが少しだけ湧いたのかもしれません。
そんな母を見て、妹がI建築さんに確認を取ると
「いいものなのに、いらないのかと思って、勿体無くてウチに持ってきてたよ」
そう言って、探していたものを出してくれました。
I建築さんの申し出。
今の私たちなら、最初からいぶかしく思い辞退させていただいたでしょう。
ただ、
自分から積極的に調べることもせずに、とにかくI建築さんを信じようとしていた母は、純粋に喜び、そして落胆しました。
そんなことがありながらも、あっという間に1ヶ月は過ぎ、解体当日。
家族揃って、解体される家を見ていました。
水に浸かり、床はめくれ壁は落ち、もう住めないと判断した家。
それでも、そんな家を目の前にして、母の目から涙がこぼれたのを、私も妹も見逃しませんでした。
そして、
「お父さんは許してくれるよね。
この家を建ててくれた、I建築さんがまた建ててくれるんだから」
そうつぶやいたことも。。。
母にとっては、父との思い出と家族の歴史が詰まった家。
それは私と妹にとっても、生まれてからの歴史が詰まっていた家でもありました。
でも、いつまでも立ち止まっているわけには行きません。
新しい家での新しい生活に思いをはせ、もう前に進んでいくしかありませんでした。
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