私の中には一抹の不安が残ってはいましたが、それでも実家の家づくりはどんどん進んでいきました。
棟上式。
母は私と同じで大雑把な性格ですが、節目節目のセレモニーや、義理などを重んじる人です。
「ちゃんとした棟上式を!」
母の希望で、菓子撒きをして、近くで喫茶店を営む叔父の店でオードブルを用意してもらって、宴席を設けました。
大工さんたちにも、ご祝儀とお土産を用意して。
実家の家づくりでも、このときは祝福ムードで、幸せな、穏やかな時間が流れていました。
このまま無事に、いい家が建ってくれればいい・・・。
家族みんなが、そう思っていたに違いありません。。。
棟上を済ませ、毎日少しずつ形になっていく家。
でも、母も妹も、出来上がっていくさまを、大工さんたちの仕事とともに見ることはほとんどできませんでした。
二人とも仕事をしていましたので、5時過ぎに仕事を終えて現場に向かうと、大工さんたちはもう仕事を終える時間。
母と妹の仕事が休みな土日は、大工さんたちもやっぱりお休みされていました。
私も、Iさんに言われた言葉が引っかかって、一人で現場を見に行くことをためらい続けていました。
それでも・・・。
母は、見にいけないことをうめるかのように、毎日コーヒーをお出しし続けていました。
叔父の店は現場から5分ほどのところでしたので、叔父の店のコーヒーチケットを1ヶ月分の単位で購入し、Iさんにお渡ししていたのです。
「いつでも自由に息抜きにいかれてくださいね」
母なりの気遣い・・・。
でも、木造在来のお家は、大工さん一人でできるものではありません。
毎日、5人から10人ほどの大工さんでのお仕事。
全員の大工さんが、毎日コーヒーを飲みに行かれると、かなりの金額になるのです。
叔父も、姉が家を建ててるからとはいえ、商売ですからしっかりと料金はとるわけです。。。
毎日毎日、コーヒーを飲みに行ってもらって、何千円も使うのはどうなの?
お家が出来上がるまでにかかるコーヒー代をざくっと考えただけでも、きっとものすごい金額になります。
それだけの予算があれば、もっと違うところに予算を回すことができるんじゃないかと思ったのです。
コーヒーは、毎日じゃなくてもいいんじゃないの?
毎日喫茶店じゃなくても、たまには缶コーヒーやペットボトルのお茶でも、「お疲れ様です」っていう気持ちさえ伝えられれば、それでいいんじゃないの?
朝、会社に行く前においていってもいいし、差し入れを届けるためならI建築さんに嫌われている私でもできるはず。
ある日、母に思っていたことを正直に話してみました。
すると、母から返ってきた答えは・・・
「いいのよ。大工さんたちが気持ちよくお仕事をしてくださるなら。
こうやって毎日、喫茶店に行ってもらって息抜きしてもらうことも、ちゃんと建ててもらうために必要なことなんじゃないの?
最初から、そういうことも計算して予算を決めてるから大丈夫よ。
だって、こういうところでケチって、大工さんに気分を害されたら、
柱とか断熱材とか抜かれちゃうかもしれないでしょ。
そのことのほうが、よっぽど怖いわ・・・。」
はじめて聞くことができた、母の本音でした。
ずっと、I建築さんのことを信頼しきってると思っていた母も、実は本当に信じきっているわけではなかった。。。
『家』という大切なものを人質にとられているような、そんな感覚。
でも、「柱が抜かれるかもしれない」そう思いながらもその人と続けていく家づくり。
それ自体に、価値があるものなのかどうか・・・。
今の私にも、その本当の答えは見つけ出せません。
いや、もしかしたら、私の中だけでは、もう答えが出ていることなのかもしれません。。。
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